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マレーシアには不穏な空気が漂う=クアラルンプール国際空港(AP)
北朝鮮の金ファミリーの長男、金正男(キム・ジョンナム)氏が、マレーシアで暗殺されたという。メディアはどこもトップで伝えている。これでテレビ政局の主役の座、炎上ネタも交代だろう。
昨年夏以降は「小池劇場」、並行して秋以降は「朴槿恵(パク・クネ)・崔順実(チェ・スンシル)劇場」と「トランプ劇場」が加わり、それぞれネタ切れを起こさないまま、「金王朝劇場」の骨肉の争いが加わる。しばらくは、目新しさもあって、王朝ドラマさながらの金一族ネタが繰り返し、擦り切れるまで流されるのだろう。
洪水のごとく情報が流され続けるため、視聴者は北朝鮮について多くを知った気にさせられる。が、その実、肝心なことは何一つ知らされない。金一族のゴタゴタをいかに微に入り細をうがって知ったところで、日本にとって肝心かつ重要な、拉致事件や核・ミサイルの問題への理解にはつながらない。
それどころか、連日の報道洪水で、「北朝鮮」と聞いただけで視聴者がうんざりするくらいに飽きさせ、肝心の問題への関心まで失ってしまうという逆の作用が働く。
正男氏が死亡したのか否か、その真偽を筆者はまだ疑っているが、事実なら、その現場が「マレーシアの空港」であったことには驚かない。豊かでのんびりしたあの南国が、同時に非常に「深い闇」の部分を併せ持つことは、つかの間の東南アジア暮らしで知った。
マレーシアはこれまで、北朝鮮絡みの件でよく名前の挙がる国ではあった。森喜朗政権時代、拉致被害者の横田めぐみさんを、日本人妻に化けさせて出国させる-というプランで北朝鮮と交渉したといわれる。その際、ご家族との再会の場所として想定されたのがマレーシアだったとの情報もあった。
東南アジアには、北朝鮮と国交を持つ「友好国」は少なくない。再会の地として、マレーシアが浮上した理由は、当時の日本側の根回しのしやすさなどがあったと考えられる。とにかく、マレーシアは北朝鮮、中国を含む多くの他国の「思惑」が入り込み、交錯しやすいところでもある。
近年はとくに中国との関係が緊密なため、中国国内での苦境を逃れ「難民」となってマレーシア内に潜伏しているウイグル人らについても、見つけ次第、強制送還という態度を鮮明にしている。
そんなマレーシアが絡む今回の「事件」。筆者は、情報の発信源とされる韓国の情報機関やマレーシアの警察当局をあまり信頼していないので、次のような筋立てもあり得るのではないか、と想像をたくましくしている。
実際、今回の件は、数年にわたり異母弟、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長からの暗殺におびえてきた正男氏と他国が仕組んだ「謀略」で、正男氏は名前と顔を変えて逃れて生きている-と話すインテリジェンス関係者もある。
いずれにせよ、日本のメディアが、金ファミリーのドロドロ話をリアルな王朝ドラマのごとき娯楽に仕立て、結果として日本人の警戒心が解かれる流れにはとりわけ注意が必要である。
■有本香(ありもと・かおり) ジャーナリスト。1962年、奈良市生まれ。東京外国語大学卒業。旅行雑誌の編集長や企業広報を経て独立。国際関係や、日本の政治をテーマに取材・執筆活動を行う。著書に『中国 歴史偽造帝国』(祥伝社)、『中国の「日本買収」計画』(ワック)、共著に『リベラルの中国認識が日本を滅ぼす』(産経新聞出版)など多数。
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