【軍事】旧ソ連のお古でもあなどれない?中国空母「遼寧」の潜在力[2/18]

 中国初の空母「遼寧」が昨年12月末から1月上旬にかけ、南シナ海で艦載機の訓練を行った。遼寧は往路で第1列島線(九州-沖縄-台湾-フィリピン)を初めて突破し西太平洋に進出。その後、南シナ海への往復で台湾をほぼ一周し、地域の安全保障に及ぼす影響に注目が集まった。

 台湾と米国の研究から遼寧の実力や運用の選択肢を探ると、現在は発展途上にあるものの、将来は周辺諸国に脅威をもたらしかねない姿が浮かび上がる。(台北 田中靖人)

「初の空母打撃群」

 12月25日、遼寧の動向をいち早く公表したのは、防衛省統合幕僚監部だった。24日夕の情報として、東シナ海中部で、遼寧と護衛の駆逐艦3隻、フリゲート艦3隻、さらに補給艦1隻の合計8隻を確認したと発表した。

 複数の台湾メディアによると、台湾の軍当局はこれに先立ち、南海艦隊(司令部・広東省湛江)に所属する052C(旅洋II)型と052D(旅洋III)型の駆逐艦が北上していたことを確認。北海艦隊(司令部・山東省青島)所属の遼寧と合流して南下するのは時間の問題とみていたという。

 台湾海軍が発行する「海軍学術」の2012年12月の論文は、中国が空母打撃群(CSG)を編成する際、空母1隻に護衛として駆逐艦3隻(うち2隻は中国版イージス)とフリゲート艦2隻、補給艦1隻と潜水艦2隻を組み合わせる予測していた。今回、潜水艦の動向は明らかになっておらず、補給艦1隻とフリゲート艦1隻は宮古通過後に艦隊から離脱したものの、構成はこれに近い。

 遼寧が13年11月に台湾海峡を通過して南シナ海に進出した際の護衛(駆逐艦3隻、フリゲート艦1隻)と比べても数は多く、艦隊としての運用に近づいていることが分かる。実際、「初の空母打撃群を編成」と報じる台湾メディアもあった。

スキージャンプ甲板による制約

 遼寧は、中国が1998年、建造が70%程度で止まっていた旧ソ連の空母アドミラル・クズネツォフ級の2番艦「ワリヤーグ」の船体をウクライナから購入、2002年に大連に回航して改修し、12年に就役させたものだ。ロシア海軍は1番艦のアドミラル・クズネツォフを現在も唯一の空母として運用。昨年11月から今年1月にかけ、地中海からのシリア空爆に投入した。

 米海軍の空母が蒸気カタパルトで艦載機を射出するのと異なり、クズネツォフ級は飛行甲板がスキージャンプと呼ばれるそり上がった形になっており、艦載機は自力で発艦する。旧ソ連が蒸気式カタパルト(射出機)を採用しなかったのは、技術的な難しさに加え、北方海域での凍結を恐れたためとの説もある。

 「海軍学術」の昨年2月の論文などによると、米海軍のカタパルトの離陸重量が約30トンなのに対し、スキージャンプ式では20トン以下に制限される。このため、スキージャンプ式の艦載機は通常、燃料やミサイルなどの弾薬を満載できない。発艦時に多量の燃料を消費するため、作戦行動半径にも影響が出る。

 遼寧の発艦レーンは、滑走開始点となるエンジンの熱風を遮る板(ディフレクター)から甲板の先端まで125メートル。F15戦闘機の離陸距離が最短で約250メートルとされることから比べれば、非常に短距離での発艦を強いられることが分かる。

 また、カタパルト1基につき約60秒おきに射出できるのに対し、スキージャンプ式では約120秒おきに制限されるという。米海軍のニミッツ級空母は、カタパルト(約93メートル)が甲板前方と側面に張り出したアングルド・デッキに各2基の計4基配備されており、1分間に複数機の発艦ができる。

 これに対し、遼寧の発艦レーンは、前方のスキージャンプに向かって三角形の辺のように線が2本が引かれているだけ。論文は、スキージャンプ式の発艦効率はカタパルト式の4分の1以下としている。

http://www.sankei.com/premium/news/170217/prm1702170001-n1.html

(>>2以降に続く)

http://www.sankei.com/images/news/170217/prm1702170001-p1.jpg
航行する中国の空母「遼寧」(共同)
http://www.sankei.com/images/news/170217/prm1702170001-p2.jpg
黄海を航行する中国初の空母「遼寧」で行われた艦載機「殲15」の訓練(共同)